私たちの体には、ウィルスや細菌が入り込むと、“ 抗体” を作ってそれを排除しようとする「免疫」という仕組みがありますが、この1つとして、ダニや花粉や食物などに対して、“IgE 抗体” を作ってしまうことがあります。このIgE抗体は、皮膚や粘膜にあるマスト細胞の表面にくっつき、ダニや花粉、食物などのアレルゲンが入ってくるのを待っていますが、この状態を“ 感作” と言います。この感作された状態で再び原因物質が体の中に入り込むと、マスト細胞についているIgE 抗体と結びつき、その刺激でマスト細胞からヒスタミンなどの化学物質が放出されます。これら化学物質が様々なアレルギー症状を誘発します。
食物アレルギーの症状
皮膚の発赤、痒み、じんましんなどの皮膚症状が多くみられます。その他、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状、咳、喘鳴や呼吸困難などの呼吸器症状、目や鼻の粘膜症状が現れます。
このアレルギー症状が皮膚、消化器、呼吸器など2臓器以上に出現した状態をアナフィラキシーとよび、アナフィラキシー症状が進行し、血圧が下がり始め意識がもうろうとした状態がアナフィラキシーショックです。
食物アレルギーのタイプ
即時型アレルギー
食物摂取後1~2時間以内、多くは15 分以内に症状が出現します。全ての年齢で発症しますが、乳幼児期の発症が極めて多いです。
乳幼児期では、鶏卵、乳製品、小麦が3大アレルゲンとして知られています。小学校以上ではそれらは減少し、甲殻類(えび、かになど)、果物類、魚類などのアレルギーが増えていきます。他にもピーナッツなどのナッツ類、そば、魚卵、木の実などさまざまな食物が原因となります。
乳幼児の即時型食物アレルギーで頻度の多い鶏卵、乳製品、小麦、大豆は3歳までに約50%、6歳までに約80%から90%耐性を獲得し摂取できるといわれています。一方、それ以外の食物(ピーナッツ、そば、魚類、果物類など)のアレルギーは耐性を獲得しずらく時に生涯にわたる除去を必要とすることがあります。
食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎
乳児期にアトピー性皮膚炎に伴って発症し、年齢とともに治っていくタイプです。すべての乳児期のアトピー性皮膚炎が食物に関与しているのではなく、約50%から70%に食物が関与していると考えられています。
原因食物として多いのは鶏卵、牛乳、小麦、大豆です。
幼児以降は、食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の原因として関与することは少なくなっていきます。
新生児・乳児消化管アレルギー
なじみがないと思いますが、新生児から乳児期前半に、血便・下痢・嘔吐などの消化器症状で発症するタイプです。細胞性免疫が関与すると考えられています。通常IgE抗体は上昇しません。
原因食物として多いのは乳製品、大豆、コメなどです。
原因食物を摂取後数時間から、なかには数日後に消化器症状が出現します。嘔吐、下痢、血便などの消化器症状が主体です。
特殊型
①口腔アレルギー症候群(OAS)
原因食物が口などの粘膜にふれることによって症状が現れます。花粉症と果物類とのアレルゲン共通性があり、花粉症患者に伴いやすい傾向があります(花粉果物アレルギー症候群:PFAS)。ハンノキ科(ハンノキ、シラカバなど)花粉症とバラ科果物(モモ、リンゴ、キウイ、イチゴなど)、ブタクサ花粉症とウリ科果物(メロン、スイカ)などが代表的です。発症は学童期以降に多くなります。
原因食物を食べた後、多くはすぐに口からのどの症状(口やのどのかゆみ、ヒリヒリ感、イガイガ感、唇の腫れなど)が出現します。まれにアナフィラキシーが起こることもあります。
②食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)
原因食物を食べて一定の運動をしたときにだけ症状が誘発されるのが特徴です。運動量が増加する小学校高学年から成人に多いアレルギーです。原因食物を食べて大部分は2時間以内に、一定以上の運動をしたときにだけ症状が現れます。症状は急速に進行し、アナフィラキシーが現れることもまれではありません。
原因食物として小麦6割、甲殻類3割が圧倒的に多い傾向にあります。
食物アレルギーの診断
食物アレルギーの診断において最も大事なのは、症状が現れた状況の確認です。「いつどこで、何をどれくらい食べたのか、何分後にどんな症状が現れたのか」を教えてください。再現性があるのかどうかも大切になります。
即時型の場合は、原因食物を特定しやすく、血液検査では異常を認めないことも多いため、年齢によってはある一定の時期まで検査を行わず経過をみることもあります。診断の最も大事な検査は食物経口負荷試験です。
また、乳児の湿疹やアトピー性皮膚炎も、まずしっかりスキンケアや保湿やステロイド治療を行い、それでも症状が改善しないときには食物を除去してみる除去試験を試みます。
食物アレルギーを診断するときに使われる検査
診断の根拠となる検査
食物経口負荷試験
食物アレルギーの診断には必須の検査です。原因と疑われた食物を食べて、症状が出現するかどうかをみる検査です。ただし、アナフィラキシー症状を起こす危険が高い場合や、明らかな陽性症状がある場合、血液検査などの結果によっては食物経口負荷試験を省略して診断することもあります。
食物除去試験
アトピー型などの非即時型の診断に用いられる試験です。疑われる食物とその加工品を、日々の食事から完全に、約1週間から2週間除去します。除去した結果、皮膚症状などのアレルギー症状がよくなるかを確認し、診断根拠の一つとします。ただし、除去試験で症状の改善が得られても、診断は確定しないため再度食物経口負荷試験を行う必要があります。
診断の補助的検査
特異的IgE抗体の血液検査
原因物質に対するIgE抗体の量を調べる検査です。IgEの量を0から6までにクラス分けして、0が陰性、1が偽陽性、2から6までが陽性とされます。しかし、陽性または陰性などの結果は食物アレルギーを診断する根拠にはなりません。抗体の結果が陽性でも陰性でも症状が出る場合もあれば出ない場合もあるからです。また症状がないのに心配だからという理由で保険診療では検査を行うことは出来ません。症状や年齢に応じて必要であれば検査を行っています。
なお、園や学校で食物除去を行う場合、医師が診断書を作成することがありますが、原則アレルギー検査の結果の添付は必要ありません。
皮膚のプリックテスト
アレルゲンエキスを皮膚にのせ、専用の針で小さな傷をつけて、皮膚のアレルギー反応をみる検査です。血液検査と同様に、この検査だけで食物アレルギーを診断することはできず、結果は診断の補助的な位置付けとなります。口腔アレルギー症候群の診断に用いるときは、原因と疑われる果物や野菜そのものによるプリックテストが有用です。当院では現在行っておりません。
食物アレルギーの治療
1. 必要最小限の食物除去
医師の正しい診断に基づき、最小限の範囲で原因食物を除去することが原則です。除去する食物の種類や除去の程度と方法、期間について医師と十分に相談してから始めましょう。当院でも安全にすすめられる方法で指導しています。
2. 薬物療法
食物アレルギーには発症を予防する薬や、耐性を獲得する薬はありません。以下の薬物は多くの場合、併用する必要はありません。
(1)抗ヒスタミン薬
食物アレルギーによるかゆみなどの皮膚症状のコントロールを目的に処方されることがあります。インタール®と同様に食物アレルギーが治りやすくなる効果はありません。また原因食物による弱い皮膚・粘膜症状は抑える可能性はありますが、アナフィラキシーを含めた中等度以上の症状を抑える効果は期待できません。
また原因食物の誤食時のアナフィラキシー対応として処方されることがありますが、その効果は限定的です。
(2)アナフィラキシーの治療
過去にアナフィラキシーを起こしたことがある場合や、アナフィラキシーを起こす可能性が高いと予想される場合には、アナフィラキシーショックの補助治療薬として携帯できるアドレナリン自己注射(商品名:エピペン®)を処方します。医師が処方するもので、本人や保護者、救急救命士等が注射することができます。
重篤なアナフィラキシーショック症状が現れたら、30分以内にアドレナリンを投与することが患者の生死を分けると言われており、適切で迅速な使用が必要です。ただし、効果の持続時間は10分程度であり、重篤な状態に陥る可能性があるため、エピペンを打ったら、必ず救急要請し、救急車で医療機関を受診してください。
エピペン®について
エピペン®はアドレナリンの量によって2種類(0.15㎎製剤、0.3㎎製剤)あります。0.3㎎製剤(黄色)は体重30㎏以上、0.15㎎製剤(緑色)は体重15㎏以上30㎏未満に処方されます。
当院でも相談の上処方を行っています。処方する場合にはアナフィラキシーについて理解し練習を行う説明と同意書が必要になります。